故 福富啓泰 ―中国ハルビンにて―
敗戦・悔恨
(「LOGOS No.14」1990.7)
福富啓泰(1903〜1986)は敗戦を中国(旧満州)のハルビン医科大学でむかえました。はじめの三首はその時ひそかに小さなノートにかき記し持ちかえったものです。また福富は敗戦から翌年の春にかけてハルビンのきびしい冬の生活を送りました。幽閉された部屋の中でつくったのが後半の短歌です。(福富保子)
敗戦・悔恨
世界史の審判遂に厳然と
われらにくだる八月十五日
(昭和20年8月15日)
めらめらと講義ノートの燃ゆるかな
わが半生を葬るごとく
(8月16日)
剣もてたたば剣もて滅びんと
昔イエスは教えしものを
(12月28日)
敗戦・希望
行方に望みを抱き生きゆかむ
わが愚かさは過去に葬むり
(昭和21年1月17日)
あかねさす東の空に尖塔の
十字架しるき朝ぼらけかな
(1月26日)
敗戦は正しき神の裁きにて
慈愛の鞭をわれは恨まじ
(3月8日)