手作りの旅(1)
糸川京子
(「LOGOS No.22」1991.5)
私の旅は、目的と行き先を決めた時からはじまる。まず訪ねる国の観光局へ行き、資料を集め、その国の観光案内所と直接コンタクトをとる。
安く、楽しくをモットーとするから、宿泊先はファーム(農家)。移動にはホテルも利用するが、なるべくミッションホテルを選ぶ。清潔で、禁酒禁煙なのがいい。
昨年の夏は、友人と二人で北欧を旅した。手作りの旅は、失敗も多い。オスロでは、着いたその日、名所めぐりの観光バスに乗った。日本人は私たちのほかに男性がひとりいた。あちこち見学してから、フログネル公園(約32.5万平方メートル)の門前でガイドは二度もこういった。
「この広い公園の彫像郡を見たら、ここへはもどらず、塔の向こう側にきてください。私とバスはそこで待っています。」 バスをおりると、みんなは勝手に歩きだした。人間の一生をテーマにした彫像を見るが、暑くてたまらない。広い芝生の木陰では、ねころんでいる人達があちこちにいる。
友人と私は、芝生にすわり、犬と遊ぶ親子連れを見てのんびりすごした。木々のはるか向こうに、バスらしいクルマが見える。集合時間の5分前、クルマの所へいったが、私達の乗ってきたバスがない。あせった。もとの道にもどったり、かけずりまわって、いっしょだった人達を夢中でさがした。
けれども、30分過ぎても見つけだせなかった。ガイドは私達をさがしてくれないのだろうか、などと恨んだりしたが、あきらめて市電に乗り、ホテルに帰ってきた。翌日、あの日本人にだけは会いたくないと思っていたのに、なんと街中でばったり会ってしまったのだ。バスはもう少し先に止まっていたことと、ガイドが20分もさがしてくれたことがわかった。私の友人は小学校の教師だ。彼女は、遠足でまいごになった子どもの気持ちがわかったと、しみじみいっていた。