ことばの世界〈鳥〉のことば(3) 

([LOGOSNo.25」1991.9)

栗原 敦(実践女子大学教授)

鳥よ
羽をまるごと外してみてくれないか

(川崎 洋)

 空を飛ぶ鳥にその羽を外せという。川崎洋(1930〜)「鳥」第二連の冒頭二行だが、思いもかけない注文ぶりに私たちの眼も洗われる鮮やかさ。

 続く末尾が「お前が空を滑れるのは/その我がもの顔加減は/羽があるから などと/そんなかんたんなことではないと/ぼくは思うのだ」と結ばれているからといって、鳥が飛べるのも空のおかげだなどと教訓落ちにしたくない。というのも、詩人は第一連を「空を鳥を近くで飛ばしたり/遠くで飛ばしたり/けしつぶから消したり/空は鳥にそうしかしてやれなくて」と、鳥の自在さに対する空の側の断念を示すかのように始めていたからだ。もちろん、それはすぐつづく「我々は/『鳥が飛ぶ』/としかいいようがなくて」を引き出すための糸口だったのだが。

 見つめる「我々」が「鳥が飛ぶ」としかいいようがないのも、地上にある「我々」には決してかなわなぬ「飛ぶ」鳥の営みへのあこがれと断念とを表している。そうであれば、空を自在に駆ける鳥こそは、あらゆる詩の源、夢みられた自在の象徴でもあったと言ってよい。「羽」というものを通して、自由の条件もまた問われていたことになろうか。

 第一、二詩集『はくちょう』『木の考え方』を含む総合詩集『川崎洋詩集』(1964) に収録されているが、同じ表題の連作には「あの鳥/あの鳥がはばたけば/鳥より先に/空が飛び/あの鳥がくちばしを開けば/鳥より先に/世界が歌い出す/あの鳥」などもあった。
 楽しい鑑賞案内『ひととき詩をどうぞ』(筑摩書房)も昨年刊行されたばかり。

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