ことばの世界 〈鳥〉ことば(7)

(「LOGOS No.29」1992.1)


栗原 敦(実践女子大学教授)


小鳥に声をかけてみた
小鳥は不思議そうに首をかしげた

                (吉野 弘)

 文鳥やセキセイインコででもあろうか。何げない日々の暮らしの中の一コマ。けれど、そんな小鳥のしぐさにも、様々な思いが浮かんで来るのだ。「わからないから/わからないと/素直にかしげた」「自然な、首のひねり」詩人は小鳥のしぐさをそう感じ、「てらわない美しい疑問符のかたち。」(第二連)と呼んだ。

 ひとつのきっかけが、まっすぐに自分の在り方を写し出すものになり、それがそのまままっすぐな願いの表明にあんる。詩篇の表題「素直な疑問符」そのままに第三連はこう収められている。

          時に
          風の如く
          耳もとで鳴る
          意味不明な訪れにされた。
          私もまた
          素直にかしぐ、小鳥の首でありたい。

 願いが、意志とともに、こんなにまでまっすぐに記されたこと、それを若き詩人とともに私たち自身のものとして、大切にしたいと思わずにいられない。

 吉野弘(1926〜)、山形県酒田市生まれ。42年12月酒田市立商業学校を繰り上げ卒業し、翌43年石油会社に入社、44年徴兵検査を受け、45年入隊を5日後にひかえて敗戦を迎える。敗戦後、労働組合運動に従事するも、49年過労で倒れ、結核のため3年の療養を余儀なく詩作はこの間、同じ病院にいた詩人の刺激で開始された。

 「素直な疑問符」は、『消息』、『幻・方法』につづく第三詩集、島崎樹夫との詩画集『10ワットの太陽』(64)に収録されている。

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