吉か凶か、石榴(ざくろ)の大成(おおなり)

紫垣 喜紀

猫の額ほどの庭に石榴の木が植わっている。245年前に、札幌から東京に転勤したとき、鉢植えの石榴の苗木を引っ越しのトラックに放り込んでおいた。

その苗が、いまでは根本の幹の直径が30センチほどに太り、剪定を怠れば電線に触れて障碍になりそうなほどに成長した。大変な暴れ木である

春先には、根元から無数のひこばえが芽を吹いてくる。エッサイの株からでる若枝と違って、石榴の根株からでる芽は棘を持って人を寄せつけない。秋が終われば、紅葉もせず無数の小さな落ち葉をまき散らす

傍若無人に振る舞う石榴の木のただ一つの取り柄は、初夏に開花する艶やかな鮮紅色の花であろう。その短い花期が終われば、この木が注目されることはない。幾つかの小さな実をつけることはある。

しかし、小鳥たちは勿論、貪欲なカラスやヒヨドリすら寄りつかない。虫も付かない。秋の終わりに地べたに実が落ちて空しく種子をばらまくだけである。石榴は独りぼっちの暴れん坊だ。

 今年2010年の記録的さだった。じっとしていてものしたたる夏を体感した。熱中症くの人が犠牲になった。

人間だけではなく、稲作野菜作りにも深刻影響がでた。地球環境荒廃わせる粗暴な暑さに樹木散々めつけられた。紫陽花(あじさい)(しお)れる満天星(どうだんつつじ)れる。(ちぢ)こまっている。そんな青息吐息樹木にあって、一際異彩っているわりがあった。石榴(ざくろ)である。石榴がたわわをつけたのである。

ざっとにも340はありそうだ。きさが半端ではない。いつもの年のピンポンきさではなく、野球のボールよりきい()がいくつもある。

石榴原産地は、トルコともイランともアフリカともれる。いずれにせよ、乾燥した熱帯亜熱帯である。今年2010年の日本が、よほど原産地気候似通っていたのであろう。わがでは猛暑石榴だけがいた。石榴一人勝ちである

ニュートンはリンゴのちるのを引力発見した。日本では、一葉落ちるのを見て天下ったがいる。は、石榴ちるのを収穫時期った。石榴の実はべたにちるとれて種子飛散してしまう。ように、()ちた()かき(あつ)めればいいというものではない。脚立がってれそうなはごくかにすぎない。電線さのところにもがなっている。そこで、大決心したのついているすべてノコギリでろしながら収穫するにしたのである

脚立から石榴り、きつきながらとしていく。

素人庭師にはしい作業である。いよくとすと、れてしまう。作業ゆっくりと慎重めなければならないちていく衣服しに手足引っ掻いていく。れない体勢をとるものだから、がこむらりをこす。午前10()から作業めた最後の1えたとき日暮っていた。

した石榴居間んでえてみた。赫々たる戦果であるれをしてくれるように石榴小山ができた大小108もあった作業途中、5道路として駄目にしているので合計すると110個以上のついていたのである。っていたよりうんとかった。

いまから60年前熊本市黒髪(くろかみ)坪井というところにんでいて小学5年生だった風呂きだった。当時風呂はなかったから銭湯っていた。銭湯どもにとってプールわりのでもあった

いうちに暖簾をくぐると、先客さんたちぬぐいをのせて湯船につかっている。きな士山をバックにけば駿河(するが)り♪、広沢虎三(ひろさわとらぞう)浪曲)を唸って(うなって)いる。たちはさんたちのりで水遊びならぬおびに時間つのをれた。

釣瓶としである。銭湯を出るころには、薄明かりの黄昏になっていた。銭湯から間借りをしていたまでは6〜7(ふん)しかかからない。

その途中七曲(ななまがり)という旧武家屋敷街る。石垣の上に白壁っていて、から石榴してがぶらさがっていた。

そんなある日曜日風呂りの白壁るとぬぐい洗面器べたにいた。下駄ぐと石垣をよじ石榴をもぎった。

やった! 上手くいったと思って石垣からりたそのくのがりにすっと人影が動いたようながした。薄暮ではっきりしない()のせいだろう。そうって家路いだ。

翌日いつもいそいそと登校した市立黒髪(くろかみ)小学校がわが母校名前である。51教室った。その途端たちの大合唱こった。「ざくろ泥棒(どろぼう)」「石榴(ざくろ)どろぼう」……。唖然とした。

不覚にも、石榴を失したところを悪童の一人に目撃されていたのである。

からかい材料えていた餓鬼たちに始末ネタを提供してしまったそれにしても、1石榴もいだだけで、泥棒呼ばわりは大袈裟ではないか。そう(おも)ったが、りであった。

この「ざくろ泥棒」を語源として、綽名形成されることにな

悪童たちは当初、「ざくろどろぼう」とてていたが、如何(いかん)せん名前(なまえ)全体すぎる難点気付いたよう。やがて「ざく」という省略形流通するようになる。しかし、これもなんだか語呂がよろしくない。そこで、発音続き具合らかにして「じゃく(どろ)」という変形登場した。だいぶこなれてはきたが、「じゃく」はさらに進化する

僕に好意を持つ親友たちが、語尾の「(どろ)」を削除わりに敬称の「さん」を

つけてくれた。その結果「じゃく」から「じゃくさん」になった。これが綽名「じゃくさん」が誕生するにった顛末である。

 「じゃくさん」の綽名中学進学してもれなかった。中学めて英語教科書が「Jackand Betty」だったものだから、またまたやかしの矢面たされたりもした。小学生には抵抗感はなかったが、中学高学年になるころから、この綽名(うと)ましくえるようになってきた。

「じゃくさん」には「さん」さん」などと、あまり威勢くないきがもっているようにじられたからである。大学進学上京してからは、「じゃくさん」と友達はほんのりになり、そしていなくなった。

数年前熊本って、くだんの石榴の木があった七曲(ななまがり)周辺た。鬱蒼とした屋敷(もり)姿し、陳腐住宅街わっている

旧武家屋敷街していた。綽名つけてくれた友だち夭逝したそのっていた。

石榴してくると赤く外皮不規則け、透明(粒々果肉)が無数れる。べるのはこの粒々部分なのだが、粒々そうとしても、なかなかうまくいかない。ってしたりすると、色素衣服したりする。100以上れた石榴をどうしたものだろう。思案していると、がインターネットでヒントをつけてきた。トルコ人と結婚した日本女性が、さずに石榴粒々を集める方法していたのだ

説明りにやってみると、粒々果肉部分をうまくすことができた。石榴しているにはこの方法ぜひめしたい。

まず、適当けた石榴を、ったボールのれる。粒々でポロポロとがしていくと、粒々余分てる。すべてがしたら、水面かんだ白い破片茶漉(ちゃこ)しでく。水をえてゴミをす。ゴミをいたらザルにけて水をる。

これでべるだけである。おったザクロをスプーンですくってめばよい。コロンブスの目から石榴(さば)であった。

スプーン一杯のザクロのは「やかなみ」と表現したらいいだろうか。

珍しさもあったせいなのだろうが、試食してくれた皆さんからは「おいしい」と好意的な評価をしていただいた。

石榴といえば、歴史的美女との因縁無視できない。

中国(せん)西省(せいしょう)西安(せいあん)()(せい)()という観光地がある。いまでこそ観光地であるが、かつては数々歴史舞台となってきた。その一つが、(げん)(そう)皇帝(よう)()()のロマンスである。(よう)()()は、ごく腋臭(わきが)だったとされるが、()(せい)()温泉ってえもわれぬ芳香(ほうこう)ち、玄宗(げんそう)魅惑したという。

「温泉水滑洗凝脂(温泉(なめ)らかにして(ぎょう)()(あら)」。(よう)()()(はだ)(あら)った様子は、(はく)(きょ)()の「長恨歌(ちょうごんか)漢詩にも(うた)われている。

この()(せい)()庭園には大きな石榴(ざくろ)の木がいたるところに()わっている。日本石榴の3倍以上のきさにつそうである。(よう)()()はザクロをんでしたとい果物ではザクロとレイシーが好物だったよう

石榴には女性ホルモンの一つ、エストロゲンがまれているとわれるが、薬効問視されている。しかし、天下美女(よう)()()んでしたとなれば、現代医学も解き明かせない美容の秘密が隠されているのかもしれない。

 (よう)()()対して、西のクレオパトラはどうだったのだろうか

古代エジプトの女王クレオパトラは、バラの香油をたらして入浴、ユリの香水つけて歴史的英雄シーザーやアントニウスを(とりこ)にした

エジプトは石榴(ざくろ)産地である。アレキサンドリアの宮殿にもたくさんの石榴があった。クレオパトラもまた、(よう)()()(おな)じく石榴(ざくろ)んだという。

史上美女たちにはくの共通点があることだろう。このあと辿までがそっくりなのである。

(とう)絶頂期いた玄宗(げんそう)(よう)()()(おぼ)れて治世(ちせい)れていった。部下突上(つきあ)から(かば)いきれなくなり(よう)()()縊死(いし)(くび)つり)させられることになる。

一方女王クレオパトラも、色香(いろか)(とりこ)にしたローマの武将たちが政敵(たお)されしまった。彼女捕虜になるのをしとせず乳房をコブラにませて自害する古代エジプト、プトレマイオス王朝終焉であった。

二人(ふたり)は「傾国(けいこく)」のぼしらも非業最期たのである

傾国(けいこく)美女(びじょ)いるところ、石榴(ざくろ)あり筆者この注目し、これらつの相性(いぶか)っている石榴(ざくろ)」は凶兆(きょうちょう)なのか。「滅亡(めつぼう)」へ(いざな)触媒のか

えはない。残念ながら、真面目研究したがいなかったようだ

 最後に、クレオパトラよりうんと時代婦人考察しよう。

エバは人類最初女性として旧約聖書創世記登場する。エバ容姿について聖書されていない。しかし、人類なのだから美女なければならない筆者える。エバにそそのかされじられていた“善悪知識”のべて、アダムとともにエデンのされた

この聖書物語に出てくる禁断 (善悪知識)は、一般的リンゴとされている。しかし、禁断がリンゴだとは聖書かれていない。

エバがいリンゴをにしている油絵は、あまりにヨーロッパ風景えないだろうかだかっぽい。

これに中東気候風土からみて、彼女べたのは石榴ではないかと主張する学者がいる。このうんと雰囲気()てきそうながする

「エバが石榴べてをか人類原罪背負ってしまった」。これなら旧約時代世界相応しいなりそううが、どうだろう。

禁断石榴であったとすればエバ「ざくろ泥棒元祖であり、大先輩ということになる。

さなこった異変

石榴(ざくろ)大成(おおなり)瑞兆(ずいちょう)(よい(きざ)し)とは(おも)えない。

異常気候(きしょう)変動がもたらした(あだ)(はな)であろう。

石榴(とが)があろうか。

石榴はない。

石榴いた満喫したまでだ。

さな多摩丘陵(きゅうりょう)尾根くにある。

40年前くの木林白樺自生していた。

転勤先札幌からると、白樺えていた。

気候北上している。

人類かさにしてくことをらない。

世界中資源確保血道(ちみち)げる。

メキシコ原油流出尖閣諸島い、チリ鉱山落盤

どれも開発競争延長線上にある。

利害だけがりになる国際環境会議議論

気候変動加速する。

野生生物ろしいいで破滅かっていく             

人類はどこまで造物(ぞうぶつ)(しゅ)への反逆けるのか。       []

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