ロゴスのオルガーノ
土屋明彦
スイス・シオンのヴァレリヤ教会のオルガンはゴシックオルガンの典型です。500年以上前に造られました。
わが国では銀閣寺創建の頃となります。古代ローマの水オルガン以来のオルガン発達史の中で、こうしたゴシック様式のオルガンは一つの終結点でありました。そしてそれ以降のパイプオルガンの原点ともなったのです。その形は、楽器の持つ「用の美」の極致と申せましょう。必要なものが、必要充分な大きさと必然的配置のもとに組み込まれ、全体のフォルムが決定されています。ヴァイオリンを例に考えてみれば明らかなように、完成した形がそこにはあります。何かを付け加えたり、削除するというような余計な手出しを拒絶する美しさと強さが内在しています。よい楽器というものは形と響きが驚くほど符合をもつものであれば、このオルガンのプランに倣った楽器の音が、磨き上げていくに足る素質をもつに到ることは論を俟ちません。
ロゴス教会は開かれた教会であり、現代を正面に見据えながら生き生きとして文化を発信し得る教会であると思います。山本三和人先生の強靭な個性と明確な理念のもと、歴史を刻んでこられました。かの国のオルガンの如く、それは古い革袋に注ぐ年々の新酒(にいざけ)であり、日々新たなものとして、人々の集いを真に意義あらしめているところの「何か」がわたくしの如き存在にまで伝わってまいります。素晴らしいオルガンの存在と、わが街の素晴らしい教会のこうした本質的共通項こそ、わたしの内面を強く動かすものであるのです。
録音やいくつかの資料によっても、この最古のオルガンの響きがいかに生気溌剌たるものであるかが裏づけられます。ふぞろいな荒々しいつくりのパイプの写真を見つめていると、後世の工業的発想によって作られたほかのオルガンパイプとは異質なものが見えてきます。 粗なたで断ち割ったような円空仏の気迫と勢いに通ずるものがそこにはあります。大オルガンの巨大なメカニズムでは成しえない鋭敏なアクションも実現させねばなりません。繊細さと力強い武骨さが同居しているといったところこそ目標とすべきでしょう。
山本護副牧師、西岡誠一氏との幸運な出会いがなければ、こうしたことを考えたり、実行に踏み出すことはなかったことでしょう。高名なオルガンビルダー草刈徹夫氏が手づくりのパイプ製法を示してくださいました。これも両氏のお陰です。ロゴス教会の皆様方が信仰にもオルガン作りにもシロートであるわたしに対し、これだけの挑戦の場をお与えくださっているという点、感謝の気持ちで一杯です。人々の輪の中で行き続けれるような、よいオルガンを完成させたいと念願しております。