虚栄の果実

山本三和人

 蛇は女の耳に「園の中央にある木の実を食べても、あなたがたは決して死ぬことはないでしょう。それを食べると目が開け、神のように善悪を知るものとなる」(創世記3:4-5),と囁きました。その木を見上げると「いかにもおいしそうで、目を引きつけ、賢くなるようにそそのかしていた」(3:6)ので、イヴは実を取って食べ、一緒にいたアダムにも渡したので男も食べました。蛇の誘いは、イヴに神の賢さを身に着けさせること、すなわちイヴを人神に祭り上げさせることでした。これこそ人間のいだきうる最大の虚栄心です。蛇(ハーナーシュ)という言葉が虚栄という意味の言葉であるということが、蛇の囁きでよくわかります。神はアダムとイヴをエデンの園に置かれたとき「園の木の実はどの木からも食べてよい。しかし善悪を知る木の実からは取って食べてはならない。それを食べると必ず死ぬであろう」(3:3)と言いました。人間は神にだけはなってはいけない、という神の戒めです。これこそ、人神誕生がもたらす悲劇を警告する神の言葉です。神に対する不順の告白のもたらす結果は死という悲劇です。悲劇は虚栄の果実です。人間の真の姿は、神の律法の鏡に写してみなければ認めることはできません。林檎(善悪を知る木の実)がなければ虚栄という背神の真実はあらわとなりません。背神の真実があらわにならなければ、自分の纏うている死の悲劇に目覚めることもないのです。

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