孫への手紙

1990年春、アメリカ生活思い出のひとこま

(「LOGOS No.35」1992.9)

松本克昭

健太郎君へ:お爺ちゃんより

 健ちゃんお元気ですか、お父さんとお母さんも元気ですか。

 おじいちゃんとおばあちゃんは元気です。このあいだ健ちゃんのママからお手紙がつきました。どうも有難うとお伝えてください。

 今日は恐竜と鹿の話をしますから、ママに読んでもらい、説明を聞いてください。

 恐竜は6,500万年前に絶滅しましたが、1月はじめのニューヨークタイムス新聞によると、エパンテリアス、アムプレクサスという恐竜が、最近アメリカのテキサス州で発見され、これがテイラノサウルスに替わって、恐竜の王様ということになりました。

 コロラド州で、最近発見されたエパンテリアスの化石を調べてわかったことは、エパンテリアスは、体重4トン、体長15メートルもあり、蛇のような、大きく広げられる顎をもち、牛ぐらいの大きさの動物を一口で呑み込むことができたそうです。エパンテリアスは3,000万年の間、恐竜の王様でした。テイラノサウルスのような肉食の恐ろしい恐竜とおなじくらい大きく、獰猛でした。

 発掘を担当したコロラド大学のロバートベーカー教授は、エパンテリアスは、21メートル、30トンもある。草食性の恐竜、プロントサウルスにも危害を与えるほど、獰猛だったそうです。攻撃には、大きな体と、強力な尻尾を使ったと考えられます。

 コロムバスでは、いま、COSI(Columbus Science Institute)で、名前を当てさせ、当てた子に、ご褒美としてTシャツをあげたりする催し物もやっています。恐竜博士、健太郎君がいれば、ぜったいご褒美をもらえるに違いありません。コロムバスデイスパッチの切り抜きを同封しました。お父さんか、お母さんに読んでもらいなさい。

 次に、おじいちゃんが、1月4日に、森で鹿をとったときの写真も同封します。この鹿は65キログラムもありました。肉はハムバーグや餃子にして食べたり、ワンちゃんのえさにしています。ざんこくだと思うかもしれませんが、鹿は害獣で、オハイオ州では、鹿による交通事故がふえ、1988年に、17,540台の自動車が、鹿に衝突し、787人が怪我をし、2人が死にました。ほおっておくと、2年で2倍以上に殖え、畑や、果樹園があらされ、高速道路の交通も、大変危なくなります。お百姓さんや保険会社が困っています。自動車の保険料も高くなっているのです。

 ハンティングは、かわいそうだといって、天敵によって、自然にコントロールするべきだとして、反対する人も多勢いますが、たとえば、狼を森に放すと、鹿をとってたべますが、人や家畜も襲いますが、大変危なく森を散歩することもできなくなります。ヘリコプターから、ホルモン剤をつめた注射器を銃でうって、人口(?)コントロールすることもできますが、大変お金がかかります。それでオハイオ州では、ハンティングライセンス収入を上手に使って、自然保護、他の動物の保護、鳥や魚、その居住環境の管理改善をしています。

鹿の数も狩猟期間や、統計によって、うまく コントロールしているのです。グリーンピースなどの団体が、捕鯨と同じように、感情的に反対して、狩猟解禁日に、森で大さわぎをして鹿を追っ払って、邪魔をすることもあります。

 一部の人たちが、伝統や文化に対する理解なしに、科学的な根拠もなしに、感情的な反対運動をすることは、捕鯨禁止運動と同様に、とても残念なことです。オハイオでは、大多数の人達が、鹿狩りに賛成しています。合理的に間引きするのが、鹿自身の群れの健康のためにも最適なのです。

 鹿は絶対に人を襲いません。人々は安心して森に行き、自然観察、Bird Watchiing、茸がり、散策等を楽しむことができます。鉄砲による狩猟期間は年に2回、合計8日間のみで、森は美しい森をふんだんに示しながら、限りなく静かに我々を包んでいます。

 おじいちゃんは、難しいとされているPrimitive Weapon (ロビンソンクルーソーが使っていたような、昔の鉄砲、一発しか打てず、不便だけど、とてもchallengingなやつ)をもって、オハイオの森の大自然の中で、昔インディアン達がやったように、静かに森の一部に溶け込んで、鹿をまつことが無上の喜びです。何時間も、体が凍えるマイナス20度の厳寒の中で待つ辛さも、65kgの鹿をしとめる大きな喜びと感激には、比較なりません。健太郎もいつか一緒に、体験してみませんか。

 おじいちゃんは、過去4年間に3頭収穫していますから(制限は1頭/年/ハンター)、75%の成功率です。これはオハイオ州の平均、10%に対してかなり高率です。それにはそれなりの周到な準備と研究があるのです。

 何週間も前からの準備、銃の手入れ、照準の精密な調整、試射、鹿の行動、Bed、足跡、trailの調整、周辺の農地の作物(とうもろこし、大豆、小麦等)の生育状況調査、当日の気圧配置、気温、風向き、等を十分納得いくまで理解したうえで、場所をきめ、朝暗いうちからその場所に入り、あとは雪がふってきても、風が吹いて凍えそうになっても、ただ忍耐強く待つのみです。

 どこかビジネスの世界に似ていませんか?こちらの力がずっと楽しいけれど。

  健太郎もお手紙書いてね。元気でね。ではまた、さようなら。 

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