被造物のうめき



  山本 俊正牧師
  
ロゴス教会06年10月1日 詩編104、ホセア書4章2〜3節

<造り主をたたえよ>   

2週間ほど前に、YMCAの主事研修の講師として、御殿場の東山荘にいってまいりました。私が到着した日は雨だったのですが、翌日は雲一つない晴天となり、朝の礼拝では、目の前にくっきりと見える富士山を展望しながら、祈りの時を持ちました。東京でもここ数日、秋晴れのすばらしい日が何日かありましたが、朝起きて外に出たとき、突き抜けるような青空がひろがり、心地よい風に吹かれ、鳥の声が耳に入ってくると、「地球はすばらしいな」と思ったり、「生きててよかったな」と感じたり、「神様は何とすばらしい、世界をお造りになったのだろう」と感じるのは、私だけではないと思います。聖書には、神によってつくられた被造物が様々な場所で、一定の秩序のもとにそれぞれ関係しながら、美しいバランスを保っていることが記されています。先ほど読んでいただいた詩編104編には、地や山や光や風もいのちが与えられ、全ての生き物がそれぞれ、大切な役割を担っていることが書かれています。(13節)には「主は天上の宮から山々に水を注ぎ、御業の実りをもって地を満たされる」(15〜16節)には「ぶどう酒は人の心を喜ばせ、油は顔を輝かせ、パンは人の心を支える。主の木々、主の植えられたレバノン杉は豊かに育ち、そこに鳥は巣をかける」、そして(19節)では「主は月を造って季節を定められた。太陽は沈むときを知っているです。私たちは、この神の造られた被造世界の美しさに接する時、心を打たれ、一人一人が神より命の息吹を吹き込まれた、生かされた存在として、生態系の中で生きていることを知るのです。生態系は英語でエコロジカル・システムと言いますが、エコロジカルの語源になっているのはギリシャ語のオイコスという言葉で、これは(家や共同体)を意味しています。オイコスは(経済)という意味のエコノミーや(教会一致)を現す、エキュメニカルの共通の語源となっています。すべての被造物は、神の愛のうちに一つの家族として、共同体として、絶妙な相関関係の中で生き、死に、再生産されているのです。神に造られた私たち、被造物の世界における秩序は、それをお造りになった神の真実に依拠しています。人間が被造世界の主人として身勝手にふるまうことは、自己破壊の道を歩むことに他なりません。(詩編74:16節〜17節)には、「あなたは、太陽と光を放つもの備えられました。昼はあなたのもの、そして夜もあなたのものです。あなたは、地の境をことごとく定められました。夏と冬とを造られたのもあなたです。」人間は神の被造世界に畏敬の念を持ちながら、毎日食べ、息をしていることを知るべきです。私たちは自然の循環の中に生きとし生きる者と共に生ているのです。

<被造世界のうめき>

ここ数年、世界各地で異常気象が相次いでいることが報道されています。今年の夏は、それほどでもありませんが、一昨年、日本では真夏日が40日間続きました。昨年はフランスを初めとしてヨーロッパの国々に猛暑が襲い、クーラーを通常、使っていない国々の人々が暑さのため亡くなりました。また、昨年は、史上最大のハリケーン・カトリーナが米国を直撃しています。私たちは、すぐに忘れてしまうのですが、今年も米国では熱波が襲い、日本を含めた世界各地での集中豪雨の被害が続きました。アジアに目を転じれば、バングラディシュでの記録的な洪水、フィリピンでのエルニーニョ現象(長期的な旱魃)、台湾での海面上昇による洪水、インドネシアの森林火災など被害が続出しています。これらの異常気象と地球温暖化との直接的関係は確認されていませんが、極端な気象現象は世界各地で頻発し、地球の温度は過去数千年で最も早く上昇しています。南極と北極の氷河は急速に溶け出していることも報道されています。また近年、詳しく述べる時間はありませんが、海洋生物の度重なる変死、ワニの生殖器に異常があること、野生生物の異変、ヒトの男性の精子数が激減していること、などが報道されています。人間環境の中に人工的化学物質が混入することによる生命体への脅威が年々、増加していることが報道されています。また近年、詳しく述べる時間はありませんが、海洋生物の度重なる変死、ワニの生殖器に異常があること、野生生物の異変、ヒトの男性の精子数が激減していること、などが報道されています。人間環境の中に人工的化学物質が混入することによる生命体への脅威が年々、増加していることが報道されています。
 1962年に米国の作家、レイチェル・カーソンが「沈黙の春」という本を出版しました。カーソンは、本の中で化学物質による環境汚染の重大性について、最初に警告を発した女性でした。「沈黙の春」は1962年に出版されて以来、アメリカでの発行部数は150万部を超え、20数カ国に訳され、読者は世界中に渡っています。皆さんの中にも本をお読みなった方がいらっしゃるかもしれません。
 「沈黙の春」に取り上げられている農薬は主に、DDTBHCをはじめとする有機塩素系殺虫剤と、パラチオ
ンに始まる有機りん系殺虫剤なのですが、当時、アメリカではこれらの農薬や化学物質は止めどなく生産され、使用されていました。
 「沈黙の春」が出版されるずっと以前から一部の学者や関係者の間では、これらの薬剤のマイナス面についての危惧の念を抱く人もありました。しかし、第二次世界大戦のイタリア戦線において、発疹チフスが流行して多くの兵士達が倒れた時、病原菌の媒介をした昆虫であるシラミをDDTが徹底的に駆除し、この病気のドラマチックな終息をもたらしたこと、太平洋戦争でマラリア蚊の防除に効果を発揮したことなどのためにDDTは救世主のように思われていました。日本においても、終戦の混乱期、防疫の目的で、駅などでだれかれとなくDDTの白い粉を頭から振り掛け、背中にまで吹きこむということがあったようです。このときは誰もいやだといえず、衛生の為には仕方のないことと思っていました。DDTBHCは殺虫剤であって人間には無害であると信じられていたのです。そうした中で「沈黙の春」は出版されたのです。カーソンは、農薬を多用することによって、木や植物が枯れてしまうことを防ぐことができても、散布した農薬のために春になっても小鳥は歌わず、ミツバチの羽音も聞こえない連鎖反応を鋭く指摘しました。春がきても農薬のために自然が沈黙してしまったのです。日本でも有吉佐和子が、1974年〜75年にかけて朝日新聞に「複合汚染」という小説を連載し、当時の工業生産中心の科学技術が、自然や人間を汚染し、滅亡の淵まで追いやっている現実に警告を発しました。日米の女性文学者は、「被造世界のうめき」を黙って見過ごすことができなかったのです。被造物のうめきはまた、世界の貧富の格差に起因して、「南」の国々の人々によって叫ばれ続けています。

米国で起きた9/11事件以降、世界各地で起きる「テロ」が問題になりますが、何故テロが起きるのかという原因を考えた時、この南北の経済格差や不均衡が根本原因であることは間違いありません。実際、豊かな国と貧しい国々の格差は絶句するほどの広がりを見せています。国連の報告によると「過去半世紀、かつてない経済発展があった。その一方で、人類の22%にあたる12億の人々が1日1ドル以下の暮らしを強いられている」と指摘しています。また、ユニセフ(国連児童基金)の報告によると、世界では未だに人口の56%の人が衛生的なトイレの設備にアクセスすることができず、 28%の人たちが安全な飲み水を手に入れることができません。「最も小さくされた人々」、困難な状況にある人々は日々の水にも事欠き、不衛生な環境や水による病気などで、特にたくさんの子どもたちが命を落としていることになります。世界はグローバル化という名のもとに貧富による分裂が顕著になっています。神に造られた被造物のうめきと叫びは極めて深刻です。
また、ここ数年「テロへの戦い」という名目で行われる侵略戦争は「暴力の連鎖」を生み、多くの生物と人間のいのちを奪っています。戦争という最大の環境破壊を筆頭に、私たちの住む世界は人間の罪深い行いの数々によって、人間を含めた自然環境全体の存在が脅かされているのです。先ほど読んでいただいた、(ホセア書4章2〜3節)に書かれていること、「呪い、欺き、人殺し、盗み、姦淫がはびこり、流血に流血が続いている。それゆえ、この地は渇き、そこに住む者は皆、衰え果て、野の獣も、空の鳥も、海の魚までも一掃される」というホセアの預言が現実化しようとしているのです。

<私たち・教会の応答>

最近、環境問題に対するキリスト教の取り組みについて調べる機会があり、先ほどご紹介しましたレイチェル・カーソンの「沈黙の春」を読み直したりしていると、レイチェル・カーソンの死後、彼女が「あなたの子どもに驚異の目を見張らせよう」と題して雑誌に連載していたものを単行本にした、「センス・オブ・ワンダー」(不思議さに目を見張る感性)という作品があることを知りました。この本も、「沈黙の春」と同様に、アメリカではベストセラーになった本でした。早速、本を買って読んで見ましたが、この本には幼児の感性を育てる上で大切なことが、詩のような文体で書かれており、写真も掲載されていて、すばらしい本でした。実は、この本を購入しようと思ったもう一つの理由は、私の長男のカイがハワイで生まれ時に、私は、同様のタイトル、つまり「センス・オブ・ワンダー」という題で、ハワイの教会の週報に文章を書いたことがあることを覚えていたからです。文章自体は短く、手書きでしたので原稿をなくしてしまったのですが、内容はだいたい覚えています。私の長男が生まれてから、長男のカイは時間に関係なく、突然泣き出すのです。たいていの場合は、妻がオッパイをあげると泣きやむのですが、そうでない場合もよくありました。初めての子どもですので、どうしたら泣きやむだろうかと、妻と共に頭を抱えてしまいました。ある時思いついて、私は、泣いているカイを車のチャイルドシートに乗せ、ドライブにでかけたのです。夜中の2時頃でした。不思議なことに、車が走り出すと、カイはぴたっと泣くのをやめてしまうのです。さらに10分ぐらいドライブすると、今度はすやすやと寝息をたてて熟睡してしまいました。家から10分ぐらいのところに、24時間営業をしている、マクドナルドがありましたので、それ以来、カイが泣き出すと、車で連れ出し、マクドナルドでお茶やコーヒーを買い求め、飲みながら家に戻ってくるのが、私の夜中の仕事になりました。ある晩、マクドナルドからの帰り道、よく寝ているカイを見ながら、どうして車に乗せてドライブすると、カイは泣きやむのかを考えて見ました。その時、私の脳裏にひらめいたのは、車のエンジンの音と自動車の振動が、もしかしたら、カイが母親の胎内にいた時によく耳にし、感じたものによく似ていて、その音と振動が安心感を与えるのではないかと思ったのです。この時、私は、イエスを身ごもったマリアが「いのちの不思議さを感じる」という意味で述べていた、「センス・オブ・ワンダー」という言葉を思い出しました。その後、私は、この自分の仮説に基づき、カイが泣き出した時、自動車のエンジンに近い音がする、掃除機や洗濯機を始動して、実験をしてみました。掃除機での成功率は30%ぐらいでしたが、洗濯機はダメでした。車の微妙な振動が成功には不可欠であるというのが、私の結論でした。レイチェル・カーソンは「センス・オブ・ワンダー」(不思議さに目を見張る感性)という作品の中で、以下のように述べています。ちょっと長いのですが、抜粋を読んで見たいと思います。(抜粋コピーを読む)

「被造世界のうめき」に対して、世界の教会は、人権、平和、正義、環境の問題への応答として、神様に造られた私たちの責任として、神学的に議論され、具体的な行動がなされています。地球環境会議や温暖化防止条約でも、キリスト者は重要な役割を果たしています。それは「いのちの神学」( Theology of Life )と呼ばれ、人間中心の「いのち」に限定しない、すべての被造世界全体の「いのち」を慈しむ神学です。そして、この神学の根幹にあるのは、レイチェル・カーソンの言う「センス・オブ・ワンダー」(いのちの不思議さに目を見張る感性)、いのちに対する驚きと覚醒の体験が大切なのではないかと思います。

現在の気候変動や地球温暖化や世界の不均衡な貿易の仕組みが、私たちのどん欲な消費主義の結果であることが指摘されています。また、自己中心的な先進国に住む人々のライフスタイルと地球環境の悪化が密接に関連していることから、私たちの生き方、信仰のあり方を問い直し、神の造られた被造世界と私たちが再度、霊的な関係を修復することが求められています。アジアキリスト教協議会が、01年にソウルで開催した、環境会議から出された、教会への公開書簡では、教会の責任に関して次のように呼びかけています。「近年の歴史において、人間の自己中心性に起因する、産業化、都市化、発達した科学と技術、グローバル化と呼ばれる新経済秩序によって、神の被造世界がひどい虐待を受けています。私たちは、神に創造された人間として、神に与えられた役割を果たしているとはとても言えません。大いに悔い改めねばならないのです。教会は地の塩であり、私たちは世の光となるべきです。私たちは被造世界に希望を与え、神に仕える者として、神の創造の働きに参与するようにと、人々を招き入れねばなりません。教会は、神の被造世界と共に生きる業を人々に伝え、教育する責任があるのです。」被造世界のうめきに応答する、私たちの信仰のあり方が問われています。

   祈り
恵みの神よ、あなたが全てのいのちをお造りになり、その一つ一つのいのちを慈しんでくださることを感謝いたします。私たちが、この時、この地球上に生きる、被造物のうめきに耳を傾け、生命の不思議さへの感性を取り戻し、共に生きる世界をつくるために、歩むことができますように、知恵と力と勇気をお与えください。   主の御名によって祈ります。  アーメン

TOPへ